HSPを理解する

HSPの特性

 HSPとはハイリー・センシティブ・パーソンの略で、世間では超繊細な人として説明されているのを多く見かけます。

 そして超繊細なために、社会のなかで生きづらさを感じるのがHSPだという内容のものが多いように思います。

 HSPとは果たして本当にそういうものなのでしょうか。

 この記事では、HSPについてより科学的根拠に基づいて説明していきます。


HSPの人は環境感受性が高い

 HSPの人は環境からの影響を、良い影響であれ悪い影響あれ受け取りやすいという特性を持っています。この特性を環境感受性といいます(Pluess, 2015)。

 環境感受性が高いこと自体に良いも悪いもありません。よく取り上げられるHSPの生きづらさとは、環境感受性の高い人が、悪い影響を受取やすいという負の側面だけにスポットを当てたものに過ぎません。

 実際は、環境感受性が高い人は、良い影響の場合も感受性が平均的な人と比べ、様々な利益を受け取りやすいといわれています(ヴァンテージ感受性理論 Pluess & Belsky,2013)。


感覚処理感受性

 HSPの研究では、気質・性格の側面を感覚処理感受性という概念で表します。心理学者のアーロン夫妻は、感覚処理感受性には4つの特徴があるとし、それぞれの頭文字をとってDOES(ダズ)と名付けました(Aron & Aron, 1997)

DOESとは

  • D (Depth of processing):環境刺激に対しての深い処理
  • O (Overstimulation):環境刺激を敏感に受け取る
  • E (Empathy and emotional responsiveness):共感と感情の動きの高まりやすさ
  • S (Sensitivity to subtleties):環境刺激に対する五感の鋭さ

D: 環境刺激に対しての深い処理

 これは物事に対して深く考える傾向を指します。

 洞察力に優れ、深く考えを巡らせることにより想定外な出来事を回避したりといった、リスク回避能力にも関わる特性といえます。  

 その反面、あらゆることを想定しすぎるため、結果、行動に移せなくなるといったデメリットもあります


O: 環境刺激を敏感に受け取る

 これはあらゆる環境刺激に対してとても敏感に反応することを指します。

 環境から多くの刺激を受け取ることができるということは、感受性が豊かであるともいえます。他者の些細な感情の変化にも気づくことができるので、人間関係を円滑にするのに役立ちます。

 その反面、日々多くの刺激を受け取っているため、情報過多になり脳が疲労するといったストレスを抱えやすい特性ともいえます。


E: 共感と感情の動きの高まりやすさ

 共感とは、他者の感じていることをあたかも自分が感じているかのように感じることをいいます。

 HSPで共感力が高いひとは、他者が境遇により感じていることや、喜怒哀楽などの感情に対し、高い反応を示します

 この特性は、相手の気持ちを理解し寄り添う能力が高いといえます。

 しかし、その能力が高いがゆえ、相手の感情に巻き込まれやすく、自身が大きなストレスを抱える原因にもなります。


S: 環境刺激に対する五感の鋭さ

 この特性は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感が敏感に反応することを指します。

 たとえば味覚・嗅覚が高いことにより食事をより楽しむことができるし、繊細な料理を作ることにも向いています。また、聴覚が高いことにより、音楽をより楽しむことができます。

 この特性のマイナス面としては、光を眩しく感じたり、音にとても敏感なことで、強いストレスを感じる場面が多くなります。



 DOESの各特性は、「わたしはO、あなたはE」というものではなく、「わたしのO特性は5段階中1」のように、各特性がどの程度なのかを尺度として捉えることが、個々の特性を理解するうえで重要です。



HSPとビックファイブ性格特性

 ここまで「HSPとはなにか?」について、HSPとは環境からの刺激に対して良くも悪くも影響を受取やすい特性を持ち、HSPの気質・性格を感覚処理感受性という概念で表すという説明をしました。

 ではHSPのひとの気質・性格が、感覚処理感受性のところで説明したDOESという各特性だけで決まるのかというとそうではありません。

 気質・性格というのは、その他いくつかの特性をみていく必要があります。人間の気質・性格を測るのによく出てくるビッグファイブ性格特性についてみていきましょう。


5つの性格特性

 ビックファイブ性格特性とは、アメリカの心理学者ゴールドバーグが中心になり提唱されたもので、人間の性格を5つの特性から表します

  • 神経症傾向 (Neuroticism)
  • 外向性 (Extraversion)
  • 開放性 (Openness)
  • 協調性 (Agreeableness)
  • 誠実性 (Conscientiousness)


神経症傾向 (Neuroticism)

感情面・情緒面の不安定さや、ストレス耐性の高さを表します。

この特性が高いひとは、感情が不安定で落ち着きがない傾向にあります。また、ストレスを感じやすく、ストレスに対処するのが苦手です。

この特性が低い人は高い人とは逆で、冷静でストレスを感じにくい傾向にあります。

HSPの成人のひとは、神経症傾向が高い傾向にあります(中程度の正の相関)。


外向性 (Extraversion)

 自己主張性や活動性、刺激を求めるといった、外に向けて積極的に行動するといった特性です。

 この特性が高いひとは、社交性が高く人との交流を好みます。また、ポジティブ思考で刺激を求める傾向が高いため、外の世界に向けての積極的な行動を好みます。

それとは違い外向性の低い人は(内向性が高い人)、一人の時間を好む傾向があり、内省的です。

HSPのひとは、内向性が高い傾向にあります。


開放性 (Openness)

 経験への開放性、審美性、知的好奇心の高さを表します。また、創造性や知性にも関連しています。

 この特性が高い人は、変化や目新しいものを好み、芸術的感性も高いことがあげられます。

 HSPのひとは、開放性が高い傾向にあります(弱程度の正の相関)。


協調性 (Agreeableness)

この特性は、利他性、調和性の高さを表します。

この特性が高い人は、他者への思いやりがあり、集団での活動を好む傾向があります。

また、利他性が高いため、人から好かれやすいといった特徴もあります。


誠実性 (Conscientiousness)

 この特性は、勤勉性や責任感の高さを表します。

 また、自己の欲求や行動をコントールする力も高いため、計画を守り仕事を完遂することができ、規則を遵守し、秩序を保つといった特徴があります。


HSPは環境整備が重要

 HSPは、良い環境であれ悪い環境であれ、環境からの影響を受け取りやすい環境感受性が高いひとであるとお話ししました。

 つまり、HSPのひとが心身の健康を維持し、「生きやすい」人生を送るためには、良い環境を整えることが重要なのです。

 それではHSPのひとにとっての良い環境とはどういったものなのでしょうか。

 HSPと一言で言っても、ビックファイブ性格特性の各特性や、DOESの各特性の度合いによって様々です。下記を参考にして、自分にあった環境をづくりをしましょう。


HSPにとっての良い環境

  • 静かな環境づくり
  • 一人の時間を多く持つ
  • 人間関係は心地よいと感じる少数の人に限定する


静かな環境づくり

自然のなかで過ごしたり、図書館で過ごすなど、静かに過ごせる環境をつくりましょう。

 わたしの場合、居住地を都心から緑豊かな地方に移しました。

 このように思い切って住むところを変えてみたり、職種や職場探しを静かな環境を優先にして決めるなどすると、大きくストレスが改善され、HSPの特性を最大限活かした生活を送ることができます。


一人の時間を多く持つ

 外部から多くの情報を受け取り過ぎるHSPにとって、精神を穏やかに保て、自分のペースで過ごすことができる一人の時間は重要です。


人間関係を限定する

 共感力が高く、深く考え過ぎるHSPにとって、広く浅い人間関係はストレスを増やす大きな原因となります。特に交友関係は、自分がストレスなく付き合いができる少数の人に限定したほうが良いでしょう。

 わたしは以前、浅く広い人間関係により気を使い過ぎたため、強いストレスを慢性的に感じ、うつ状態になっていました。また、付き合いで多くの時間を失うことになっていました。

 今ではそのような付き合いを辞めたことで、自分の時間を多く持つことができ、筋トレをしたり、自分の好きな勉強をしたりと、自己成長のために時間を使うことができるようになったので、本当に良かったと感じています。



まとめ

 HSPの特性について、分かりやすくまとめておきます。

 HSPとは環境感受性が高く、環境からくる刺激に対して、良くも悪くも影響を受け取りやすい特性です。


 そして、気質・性格の側面を感覚処理感受性という概念で表します。
 
 感覚処理感受性には4つの特徴があり、それぞれの頭文字をとってDOES(ダズ)といいます。

  • D (Depth of processing):環境刺激に対しての深い処理
  • O (Overstimulation):環境刺激を敏感に受け取る
  • E (Empathy and emotional responsiveness):共感と感情の動きの高まりやすさ
  • S (Sensitivity to subtleties):環境刺激に対する五感の鋭さ

 自身のHSP特性について考えるとき、HSPの特性だけでなく、ビッグファイブ性格特性というものも合わせて見ることが重要です。

  • 神経症傾向 (Neuroticism)
  • 外向性 (Extraversion)
  • 開放性 (Openness)
  • 協調性 (Agreeableness)
  • 誠実性 (Conscientiousness)


 HSPとビックファイブの各特性は、「わたしの〇〇特性は5段階中1」のように尺度で表します

  
 HSPのひとは、自身のHSPとビックファイブの各特性を理解し、最大限活かせる良い環境づくりをすることで、感受性が平均的な人と比べ、多くの利益を受け取ることができます。